「誰にでも好かれたい」が売上を遠ざける。
「捨てる」勇気
「せっかく起業したのだから、できるだけ多くの人の悩みを解決したい」
「ターゲットを絞りすぎると、お客さんが来てくれないのではないか」
「誰かを取りこぼしてしまうのがもったいない」
対人支援のビジネスを志す優しい起業家ほど、このような思いを抱きがちです。そして、ブログやSNSで「万人受けする無難なメッセージ」を発信し、商品メニューには「あれもこれもできます」と豊富な選択肢を並べます。
しかし、残酷な真実をお伝えします。
「誰にでも好かれたい」「すべての人を救いたい」という思いこそが、あなたのビジネスから魅力を奪い、売上を遠ざけている最大の原因です。
今回は、ビジネスにおいて最も重要でありながら、多くの人が恐れて実行できない「捨てる勇気」について解説します。
「100人全員からの80点」は誰からも選ばれない
世の中には、大きく分けて2種類の商品があります。
一つは、100人全員から「まあまあ良いね(80点)」と言われる「幕の内弁当」のような商品。
もう一つは、100人中90人には「私には必要ない」「極端すぎる」と無視されたり批判されたりするけれど、特定の10人からは「まさにこれが欲しかった!(120点・200点)」と熱狂的に支持される商品です。
個人起業家が目指すべきは、圧倒的に後者です。
大企業であれば、莫大な広告費を使って「幕の内弁当」を大衆に売りさばくことも可能です。しかし、資金も知名度もない個人がそれを真似すると、誰の心にも刺さらず、あっという間にレッドオーシャン(競争の激しい市場)の波に飲み込まれてしまいます。
現代の消費者は、日々膨大な情報にさらされています。「誰にでも当てはまる無難なノウハウ」や「当たり障りのない綺麗な言葉」は、もはや「ノイズ」として1秒でスルーされます。
お客様がお金を払ってでも欲しいのは、「自分のためだけに作られた、究極の専門料理」なのです。
ハーバードの権威も提唱する「トレードオフ」の法則
この「絞り込む」という考え方は、単なる精神論ではありません。
ハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、競争戦略の世界的権威であるマイケル・ポーターは、戦略の本質を次のように語っています。
「戦略とは、何をやらないかを選択することである(トレードオフ)」
何か一つの強みを得るためには、他の何かを明確に「犠牲(捨てる)」にしなければならない、という理論です。これを完璧に体現しているのが、世界的な家具メーカーである「IKEA」です。
IKEAのターゲットは、「おしゃれで安い家具が欲しい人」です。その強み(安さとデザイン)を極限まで尖らせるために、IKEAは多くの常識を「捨て」ました。
アクセスの良い都心の立地を捨てた(郊外の広大な土地へ)
店員による丁寧な接客を捨てた(顧客自身で商品を探す)
完成品の配送を捨てた(顧客自身で持ち帰り、組み立てる)
もしIKEAが、「車を持っていない人も取り込みたい」「組み立てが苦手な高齢者も接客したい」と欲張っていたらどうなっていたでしょうか? 経費がかさんで家具の値段は上がり、「IKEAならではの安さ」という最大のブランド価値は崩壊していたはずです。
何かを捨てるからこそ、残った一つの強みが圧倒的な輝きを放つ。
これが、ポジショニングとブランド構築の鉄則です。
エネルギーの分散を防ぎ、「レーザービーム」を放つ
「誰にでも好かれたい」という罠は、あなたの「エネルギー」をも奪います。
例えば、あなたに「200」のエネルギー(情熱、時間、思考力)があるとします。
「20代のキャリアに悩む女性も、40代の子育てに悩む主婦も、50代の起業したい男性も救いたい」とターゲットを広げた瞬間、あなたのエネルギーは「70」「70」「60」と分散してしまいます。
これでは、どの層に対しても中途半端なメッセージしか届きません。
しかし、ターゲットを「地方でサロン経営に悩む女性」など、たった一人(ペルソナ)に絞り込んだらどうでしょうか。
あなたの持つ「200」のエネルギーは、レーザービームのように一点に集中します。
「あのときの私と同じように苦しんでいる、この人だけは絶対に救ってやる!」
その強烈な情熱(エネルギー)が言葉に乗り、SNSやブログを通じて発信されたとき、初めて読者の魂を揺さぶる「共鳴」が起きます。
テクニックやノウハウだけでは人は動きません。人を動かすのは、一点に凝縮された熱量なのです。
「NO」と言える人だけが、真の自由を手に入れる
ターゲットを絞り、独自のポジションを築く過程では、必ず「自分の軸に合わないお客様」が現れます。
そのときに、勇気を持って「NO」と言えるかどうかが、起業家としての覚悟を問われる瞬間です。
「もっと安くしてくれたら買うのに」
「あなたのやり方ではなく、私のやり方でサポートしてほしい」
こうした要望に、「せっかくのお客さんだから…」と迎合してしまうと、あなたは「お客様の言いなり」になり、疲弊し、ビジネスの一貫性を見失います。
本当に自分が理想とするゴールがあり、心から助けたい人が明確であれば、それ以外のノイズには堂々と「NO」と言えるはずです。
Appleの創業者スティーブ・ジョブズは、「何をやってきたかと同じくらい、何をやらなかったかを誇りに思う。私は1000のことに『NO』と言ってきた」と語りました。
「NO」と言えるということは、あなたが自分のビジネスの主導権を握り、真の自由を手に入れた証拠なのです。
あなたは誰に嫌われる覚悟がありますか?
「誰にでも好かれる」ということは、「誰からも特別に愛されない」ことと同義です。
ビジネスにおいて、万人から好意的な無関心を向けられるくらいなら、一部の人から猛烈に愛され、同時に別の一部の人からは「極端だ」「私には合わない」と嫌われるほうが、はるかに健全であり、成功に直結します。
あなたは今、誰を取りこぼすことを恐れていますか?
そして、あなたが本当に人生を懸けて救いたい「たった一人」は誰ですか?
恐れる必要はありません。
あなたが勇気を持って「それ以外」を捨て、たった一人に向けて魂のメッセージを放ったとき、あなたの商品はライバル不在の「圧倒的なブランド」へと進化するのです。